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海外活動報告

イギリス訪問記(2017年11月20日〜25日)

イギリスの病院を訪問するのは2006年、2009年に次いで3回目になります。今回の訪問の目的は、日本に未導入の新しい人工股関節挿入ガイドOPS(Optimized Positioning System)と、やはり日本未導入の小さいサイズの人工股関節を見学するためでした。国民投票によってEU離脱を選択したイギリスですが、以前イギリスを訪問した時と比べて医療システムが変化したことを感じました。日本と同様、公的保険制度が財政的に疲弊してしまい、有名な「ゆりかごから墓場まで」というスローガンは変化を余儀なくされています。

11月21日(火)

最初に訪問したのはThe Wellington Hospital(ロンドン)で、HCA International hospital groupに属する私立病院です。この病院で治療を受ける患者は自分で民間保険会社の保険に加入している必要があります。保険会社と病院が契約しているので、保険会社が病院に治療費を支払い、患者自身は病院に料金を払わず、毎月保険会社に保険料を支払っているわけです。わたしが会ったのは、Dr. Giles Hugo Staffordという42才の整形外科医です。年間130件程度の人工股関節置換術を執刀していますが、OPS(Optimized Positioning System)という手術支援システムを利用しています。術前の骨盤の動きをレントゲン写真で計測し、至適と考えられる位置にカップを挿入するのですが、術前撮影したCT画像データを基に臼蓋の骨を削る位置を示すガイドを作成しておきます。このガイドに装着した装置から出るレーザー光線のポイント(天井に投影される)と骨盤に刺入したピンに付けた装置から出るレーザー光線のポイントを天井で一致させることによりカップ設置位置を決定することができます。文章だけでは分かりにくいので、ご興味ある方はYouTube(英語版)をご覧になってください(https://www.youtube.com/watch?v=Fywxda23A90)。術前の動作解析とガイドの作成に3週間かかります。高価なナビゲーションシステムを購入する必要がないので、ナビゲーションがない病院ではOPSを導入するのは容易かもしれませんが、1回あたり数万円のコストがかかります。
以前、わたしがお会いしたイギリスの医師は私立病院だけではなく公立病院でも診療をしなければいけなかったのですが、現在はその縛りがないとのことでDr. Staffordは公立病院では診療していないとのことです。彼にとって、この病院で働いていることが余程嬉しいのか、自分は幸運だったと言っていました。私立病院とはいっても入院は3泊4日、医師による診察は、術後2週、4週、3か月、6か月、12か月、24か月だけでそれ以降、彼は診察しないとのことです。イギリスはGP(かかりつけ医)制度なので、何か異常があればGPに診察してもらうことになります。

The Wellington Hospital。
写真1:The Wellington Hospital。
Dr .Giles Hugo Staffordと。
写真2:Dr .Giles Hugo Staffordと。
手術室。世界共通の風景。
写真3:手術室。世界共通の風景。
骨切用のガイド(臼蓋用、大腿骨用)。
写真4:骨切用のガイド(臼蓋用、大腿骨用)。
手術室天井に示されている赤いポイント。この2つのポイントが重なれば計画通りにカップが設置される。
写真5:手術室天井に示されている赤いポイント。
この2つのポイントが重なれば計画通りにカップが設置される。
控室に置いてあった軽食。スイカに味がなかった。
写真6:控室に置いてあった軽食。スイカに味がなかった。
The Wellington Hospitalの外来専用建物。病棟から歩いて5分。
写真7:The Wellington Hospitalの外来専用建物。病棟から歩いて5分。
外来棟の待合室。
写真8:外来棟の待合室。
外来棟の診察室。
写真9:外来棟の診察室。

11月22日(水)

2つ目に訪問したのはNuffield Orthopaedic Centre(オックスフォード)です。オックスフォード大学の関連病院ですが公立病院です。つまり公的保険(NHS:National Health Serviceといいます)患者に対しての治療を行っており原則無料です。公的保険による治療を受けるのは順番待ちであり、手術によっても違いますが1~2年待たなければいけません。それに対して、ロンドンのThe Wellington Hospitalのような私立病院では私的保険による治療をすぐに受けることができます。公的保険による医療は危機的状況で、治療を受けるまでの期間は伸びる傾向があります。一方、私立病院は増えているそうで、保険会社以外にも、アメリカのメイヨ・クリニックやクリーブランド・クリニックといった名の通った病院もイギリスに進出してきています。

Mr Duncan Whitwellによるミニヒップの人工股関節置換術を見学しました。彼は年間300件程度の股、膝人工関節および腫瘍の手術を行っている医師で、手術中にも手を止め、ミニヒップの手術方法を語る姿はエネルギッシュそのものでした。小さいインプラントは骨の切除量が少ないので再置換術のことを考慮して若年患者に使うのですが、高齢者にはセメント固定の安価な人工股関節を使用するとのことでした。彼が言うにはは余命を考慮すると高価なインプラントを使う必要はないそうです。手術衣は石部基実クリニックではいわゆる宇宙服を着用して感染予防を行っていますが、できるだけコストを削減するため公立病院であるこの病院では使用していません。患者は手術当日に入院し2日後に退院します。彼が診察するのは術後6週目のみ。それ以降は診察しません。理由は診察費用がかかるからというものでした。では誰が診察するのかと問うと、GP(かかりつけ医)か理学療法士であろうとのことでした。

2件の手術後、院内を案内してもらいました。廊下に掲げてある白黒写真に写っている人物を示し、これは誰だと思うかと尋ねてきました。わたしは分からないと言うと、有名なGirdlestone教授だとの答え。Girdlestoneという医師は股関節外科医ならば誰でも知っている医師で彼の名前が付いた股関節の手術法があります。Girdlestoneはこの病院の初代教授だったのです。

Nuffield Orthopaedic Centre。
写真10:Nuffield Orthopaedic Centre。
Mr DuncanWhitwellと。
写真11:Mr DuncanWhitwellと。
手術中。
写真12:手術中。
小さい人工股関節用手術器械。
写真13:小さい人工股関節用手術器械。
手術当日朝に患者が入院し、この個室で手術まで待つ。
写真14:手術当日朝に患者が入院し、この個室で手術まで待つ。
控室にて。やはりここはイギリス。
写真15:控室にて。やはりここはイギリス。
Girdlestone教授の写真。
写真16:Girdlestone教授の写真。

11月23日(木)

人工股関節製作工場を見学しました。以前の海外活動報告にも書きましたが、わたしが使用しているインプラントについては、その製作工場に行って製作過程や品質管理、インプラントを作る工作機械(産業用ロボット)を確認するようにしています。この工場にある工作機械はわたしが見た範囲では全て日本製でした。精度を測定する機器も日本製です。ものづくり日本の地盤低下、日産や神戸製鋼の検査データ捏造というニュースに接する度に日本という国はどうなってしまうのかと不安に思ってしまいましたが、海外に行って基幹機械が日本製であることを見ると、まだまだ日本はやれると自信が持てます。

工場にてミーティング
写真17:工場にてミーティング

ロンドンとオックスフォードの観光はできませんでしたが、ストーンヘンジとイギリス空軍博物館ロンドン館を観光しました。

ストーンヘンジ

ロンドンから西に200qにある有名な先史時代の遺跡です。巨石を直接触ることはできませんが、周囲から見ることができます。札幌の真駒内滝野霊園には同じ規模のレプリカがあるので、初めて見た感じがしませんでした。

ストーンヘンジ。風が強くて寒かった。
写真18:ストーンヘンジ。風が強くて寒かった。

イギリス空軍博物館ロンドン館

大きな体育館のなかに数多くの軍用機が展示されていました。日本でも大きな航空博物館があってもいいのではと思わされます。スピットファイアーの操縦席に座ることができました(10ポンド)。元零戦搭乗員でラバウルの撃墜王と言われた大原亮治氏が80歳を過ぎて57年ぶりに零戦に乗り込むとき、機体の左側から前後の風防に手をかけ、そのまま両手を支えに身体を浮かしてすっと操縦席に座ったそうです(このような高齢者になりたいものです)。もちろん私はそういう風に乗り込むことはできず、幸いスピットファイアは乗り込みやすいように機体の側板が下に折りたためましたので(写真20参照)、車に乗る時のように操縦席に座りました。(それでも大分不自由でしたが)

イギリス空軍博物館。
写真19:イギリス空軍博物館。
スピットファイア操縦席に座っているところ。飛行帽は本物とのこと。
写真20:スピットファイア操縦席に座っているところ。飛行帽は本物とのこと。

ロンドンでもオックスフォードでも手術は、執刀医、手術助手、機器担当助手の3人によって行われていましたが、ロンドンではアラブ系の男性ナース、オックスフォードではドバイから来た医師が手術助手でした。ちなみにイギリスの移民人口は850万人、日本は200万人です(2015年)。日本も海外からの勤労者を早急により多く導入しなければいけない時期にきています。日本において介護や看護では慢性的な人手不足が続いており、働き手にとって現場は厳しい状況です。今後も良い医療を続けるために、財政、労働問題の解決にはかなりの覚悟が必要になってきたことを痛感した今回のイギリス訪問でした。

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